4日目


今更ながら告白させて頂きます。


実は私……お化け屋敷とかホラーが大の苦手です!!


いや、グロいのとかは大丈夫なんだよ?


実際スプラッタな映画とかよく見るし。


だけど、お化けはダメなんだよねー…。


『だからキルア、手繋ご!!』


「怖いなら始めからそう言えよなー」


言葉ではそう言ってるけど、しっかりと手を繋いでくれる。


キルア優しいっ!!


ああ、何か自分が情けない…。


クールで仕事をそつなすこなす完璧な女性が売りだったのに、これじゃただのクールなフリした情けない女だよ。


まあ、実際そうなんだけど。


薄暗い道を恐る恐る進む。


何故かとおりゃんせが流れていて、下手な音楽より怖い。


『キ、キルア。ねえ、何か話して?』


数歩進んだ辺りでキルアに話しかける。


音楽怖いんだよ!!


「何、名前って実はすっげー怖がり?」


別にそうじゃないと否定しようと口を開くと同時に、足首をひやりとした手に掴まれた感触。


『ひっ……………!』


恐る恐る確認するために足首を見ると、白い手首から先がない手に足首を掴まれていた。


慌てて足をぶんぶんと振り、振り払うとキルアの手を引いて走った。


††††††††††


「ちょっ、名前!?」


ぐいぐいと手を引っ張って走る私にとりあえずというように着いてくるキルア。


必死に走っていると、いきなり横の井戸からお化けが出てくる。


声にならない叫び声をあげて、お化けを遠ざけるように走ると、またもやお化けが出て来た。


『き、きゃああぁああっ!!』


叫び声をあげてキルアに縋り付く。


そのままキルアを道連れにして、お化けのいない地点でぺたりと座り込んだ。


猛スピードで走った足が痛い。


「名前?大丈夫か?」


キルアに抱きついたまま、ぴくりとも動かない私を心配して声をかけてくれる。


大丈夫、と言いたいところだけどそれは無理そうだ。


恐怖のあまり、涙が溢れてきた。


キルアが私の頭をゆっくりと撫でてくれる。


そっと涙でぐちゃぐちゃな顔をキルアに向ける。


お化粧は全部ウォータープルーフだし、そもそも薄くしかしてないからとれてないはず。


『こ、怖いよー…!』


ぎゅうっと更にきつくキルアを抱きしめる。


「ちょっ、名前!!苦し……っ!!(胸に顔埋まってる!つか、涙目ってヤバイだろ!!)」


キルアが私の胸元で苦しげな声を出したから、少し力を緩める。


そっ、と遠慮がちにキルアの手が私の背中に回り、空いた手は私の頭を撫でたまま。


キルアの温もりと匂いに、だんだん安心して、肩に入っていた力が抜ける。


「名前、俺がいるから。俺が守るから。だから、出口まで急ごうぜ」


私が落ち着いたのを確認したキルアがそう言って私の手を取った。


ぐいっと引っ張られて、立たせられる。


背伸びして私の涙を袖で拭ったキルアは、私の半歩前を私を庇うように歩く。


私はキルアの背に顔を埋めるようにして後を追う。


途中、何度か躓きかけたが、その度にキルアがこけないように支えてくれたし、お化けが出てきたら、少し早足にリードしてくれた。


そのおかげか、最後のほうはお化けのことなど全く気にならなくなり、ただキルアの温もりを感じていた。


「名前、終わったぜ」


外に出ると、眩しい日差しにくらりとしながらキルアを見る。


キルアは安心させるような笑みをしていた。


「あ、なあ名前。俺喉渇いたし、ちょっと休憩しない?」


恐らく私を気遣かってくれたのだろう。


私はキルアの言葉に頷いた。


††††††††††


「ほい」


『ありがとう、キルア』


キルアに手渡されたジュースを一足先にベンチに座っていた私は受け取り、一口口に含む。


キルアは私の隣に腰掛けて、同じようにジュースを飲んだ。


『ごめんね。お化け屋敷で迷惑かけちゃって』


口が潤って、完全に落ち着いた私は、キルアに謝罪の言葉を吐いた。


一瞬、何のことだか分からなかったのかきょとんとしたキルアだったが、意味を理解すると、にこりと笑った。


でも、その笑顔はどこか申し訳なさそうだ。


「いいって、迷惑なんて思ってねえし。それに、誘った俺も悪いんだしさ」


そんなことない、今日はキルアに楽しんでもらうためなんだから。


それに、私がお化け屋敷は怖いからって言えば、優しいキルアは止めてくれただろう。


そう言おうとすると、キルアは私を真っ直ぐ見てにこりと今度は無邪気な笑顔を浮かべた。


「ま、言わなかった名前も悪いってことでおあいこね。ほら、次何乗る?あ、俺もう一回ジェットコースター乗りたい!」


私の気持ちを察してくれたキルア。


ああ、やっぱりキルアは優しいし私なんかよりずっと大人だ。


『うん。じゃあもう一回ジェットコースター乗ろっか!』


キルアの笑顔に私もつられて笑った。


††††††††††


ジェットコースターにコーヒーカップ、ミラーハウスなど様々なアトラクションを乗り、もうそろそろ閉園時間だ。


『んー…、時間的にも次で最後になるけど、何か乗りたい物とかある?』


キルアと手を繋ぎながら園内を歩く。


キルアは私の問いにしばらく考え、何か思いついたのか、私の方を見てにこりと笑った。


「観覧車!」


『観覧車?よし、じゃあ行こう』


キルアのことだしもう一回ジェットコースターとか言われると思ってたから少し驚いた。


観覧車の乗り場はカップルが多く、それなりに並んで見えるが、待ち時間は案外短かった。


ここの遊園地の目玉とも言える観覧車はかなり大きく、一周がけっこう長い時間かかるらしく、それが売りだ。


まあ、今回時間的な意味ではぎりぎりセーフといったところだから、何とも言えないが。


ほら、私はいいけどキルア16歳未満だしさ。


「2名様ですか?足元お気をつけ下さい。」


ついに私達の順番がきて、ゆっくりと乗り込む。


キルアと向かい合うように座り、窓の外を眺めた。


『うわあっ!綺麗だね、キルア!夜空が下に広がってるみたいにキラキラしてる!』


無意識に、自分でも驚くくらい無邪気な声が出たことに恥ずかしくなってチラリとキルアを見た。


「へえ…。俺、夜景見てもそんなこと思わなかったな」


そう言ったキルアの顔は、嬉しそうでホッとした。


††††††††††


キルアから目線を外し、もう一度夜景を見る。


キラキラと輝いていてとても綺麗だ。


「なあ、名前」


不意にキルアが私を真っ直ぐ見つめて声をかけてきた。


『何?』


身体をキルアのほうに向けて首を傾げる。


「今日、ここに連れてきてくれてサンキューな」


『?うん』


いつになく真剣な顔をしたキルア。


どうしたんだろう、と続きを待ってみると、キルアは何かを決心したかのように口を開いた。


「…ごめん、俺名前に嘘ついてた。俺さ、実はあの日道中で倒れてた理由は何となく分かってるんだ。あの日、仕事帰りだった俺は“願いを叶える扉”を偶然見つけてくぐったんだ。」


いきなりのカミングアウトに、しばらく頭がついていけなかった。


何とか頭を整理した私は、キルアに確認するため口を開く。


『え、じゃあその扉をくぐって気づいたらここにいたと?』


「うん。“願いを叶える扉”はいつどこに現れるかもどこに繋がるかも不明なんだ。俺がその扉だって気づいたのは、その扉が話しかけてきたから。[君の願いを叶えてあげる。だから開けて]ってね。俺、扉の噂のこと知ってたから興味本意でくぐったんだ。そしたら意識が飛んで、次に気づいたときには名前に拾われてた」


つらつらと語り出したキルア。


どうして今ホントのことを言ったのかは分からないけど、ただ一つ思ったのは、キルアはこの世界の人物じゃないかもしれないってことだった。



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